徒然書庫のブログのパスを忘れてしまってup出来ないので、とりあえずこちらに投下します。
「…おい、珠洲。何を怒っているんだ」
「別に、何も怒ってないですよ」
ぷい、と顔を背ければ、むっとしたのが雰囲気で分かった。
それでも構わずにすたすたと歩き続けていれば、足の長さを活かして先回りした克彦先輩が強引に手を伸ばし顎を掴んできた。
む、っとして腕を振り払おうとするけれど、それを見越した上での行動だったらしくたやすく封じ込められてしまう。
すっと長く綺麗な指先が伸びてきて、私の眉間を情け容赦なくぐりぐりと押してくるものだから。
「い、痛っ!痛いですってば!」
「眉間の皺」
は?
何を言われているのか今ひとつ分からなくて、首を傾げていれば。
「怒っていないのなら、この馬鹿みたいな量の眉間の皺をどう説明する」
「克彦先輩が私の眉間をぐりぐり押してきて痛いからですよ」
「その前からもう出てたぞ」
「気のせいじゃないですか」
「…ほう、お前はその年ですでに眉間に皺がデフォルトなのか」
「………そうですよ、はいそうです。デフォルトなんですからいつでもいつまでも若々しくて綺麗な壬生先輩は気になさらないで下さい」
普段の珠洲からは到底想像できないほどの饒舌っぷりに珍しく克彦が驚きに目を見開く。
そのまま畳み掛けるように、
「それに先輩いつも先輩言ってるじゃないですか」
「は?何のことだ」
「お前はいつもいつも顔緩みすぎだ。ちょっとはそのしまりのない顔なんとかしろ、って」
「それとこれと何の関係があるんだ」
「だから、たまにはこういうのもいいんじゃないですか」
「……」
「………」
((強情なやつめ…!))
互いに一歩も譲らないとばかりに、無言を貫き通すけれども、さすがにこんなに至近距離に綺麗な顔があると落ち着かないもので。
けれど当の克彦先輩の表情は先程から些かも変わった様子は見られなかった。
そりゃあ、あれだけ綺麗な顔を毎日見てるんだから私みたいな平均並みの顔なんて穴があくほど見たってどうってことはなんだろうけど。
(それはそれでなんだか納得がいかない…)
徐々にそわそわとしだした私に、一瞬にやりと笑って、
「だったらまだこっちの方がマシだ」
言って、人のほっぺを思いっきり引っ張った。
「ひゃ!ひゃにひゅるんれすひゃ~~~っ!!」
かなり本気で抓っている様で、尋常じゃなく痛い。
手加減などしてくれるとは思ってなかったが、一応女の子相手だというのに酷すぎる。
必死にじたばたと手を振って振り払おうとしても、男と女では力の差が有りすぎた。
なんとか振りほどこうとすればするほど、無駄な努力だとばかりに克彦先輩は意地悪そうに口の端を持ち上げて嫌な笑みを浮かべるから余計に面白くない。
暫くそうした攻防が続いて。
ふいに頬から指が外れ、するりと撫でるように滑らせて、本当に小さくて聞き取りづらいほどの声で「お前はいつも能天気に笑ってればいいんだ」と囁いた。
言葉とはまるで正反対な、とても優しい声音でそんな事を言うものだから。
「何を勝手な事を言っているんですか」という言葉は喉でひっかかって、結局こくんとひとつ頷く事しか出来なかった。
お題は「確かに恋だった」様よりお借りしました。
彼女の長いセリフ5題より、
「1.たまにはこういうのもいいかと思いまして」
フライングでちまちま書いてたやつなので性格とかが大分違う…。
喧嘩っぷる大好きです。