「…う~ん、おいしー!」
ほっぺた落ちそう!と、元から緩んでる頬を更に緩めて珠洲が嬉しそうにヨーグルトをスプーンで掬う。
本当に単純な奴だ。幾ら好物とはいえ、たかがヨーグルト位でこの世での最高の幸せだと言わんばかりの顔をするほどのことか。
そんな半分呆れ顔で見ていた晶に気づいて手を止めると、暫し考えるように唸ってから「よし!」と気合を入れてから、何を思ったのか。
「あまり気は進まないんだけど、そういうことなら仕方ないね」
と、ひょいとスプーンで一口分ヨーグルトを掬って、にこにこと、こちらに差し出してきたのだ。
これには晶も固まってしまった。
…昔から何を考えてるのかよく分からないやつだと思ってたが、今度は何を考えてるんだ。
普通ならばこういう場面は「はい、あ~ん」等とどこのバカップルだと突っ込みたくなるようなお決まりのシーンなのだろうが。
あいにく自分と彼女はそんな仲ではない。
そもそもそんな仲だとしても、自分にそんな甘ったるい事が出来るのかどうか疑わしいところではあるが。
ガンガンと痛む頭を抑えながら、
「一応聞いておく。…どういうつもりだ」
「どういうって、晶、これ食べたいんでしょ?」
さっきからじーっと穴が開きそうなくらい見てたじゃない、ときょとんと首を傾げる珠洲に、晶は頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。
百歩譲ってそういう風に見えたのだとしてもだ、少しは時と場合を考えて行動して欲しいと心底思う。
「……お前の鈍感っぷりはよく知ってると思っていたが、それは間違いだったみたいだ。まさかここまで救えないほどだとは思わなかった」
「む!なによ、もしかして馬鹿にしてるの?!」
「今のがほめ言葉に聞こえるなら、相当いい耳してるぞ」
「もう!せっかく日頃お世話になってるお礼にと思って断腸の思いで差し出したのに、何よその言い草!」
どうやら本気で怒らせてしまったようで、ぷいっとそっぽを向いたと思ったら先程までぐいぐいとこちらに差し出していたスプーンをあっさりと戻し、ぱくりと己の口へと運んでしまった。
それを横目で見ながら、だったら時と場所を選んでくれよ…と、晶は泣きたいのを必死で堪えることしか出来なかった。
(これが昼食真っ最中の自分のクラスじゃなかったら、もしかすると食べられたかもしれないのに)
お題は「確かに恋だった」様よりお借りしました。
彼女の長いセリフ5題より、
「5.あまり気は進まないんですが、そういうことなら仕方ないですね」
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